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釧路地方裁判所帯広支部 昭和54年(わ)155号 決定

少年 E・N(昭和三五・三・二五生)

主文

本件を釧路家庭裁判所帯広支部に移送する。

理由

一  本件公訴事実につき、当裁判所が認定した事実は

被告人は

第一  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五四年四月九日午後七時一五分ころ、十勝郡○○町字○○○○国道三八号線路上において、普通乗用自動車を運転し

第二  前記日時ころ、業務として前記自動車を運転し、前記場所を釧路方面から帯広方面に向け時速約九〇キロメートルの速度で進行中、前方は右カーブになつていたのであるから、あらかじめ減速して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然と前記速度のまま進行を続けた過失によりカーブをまがりきれず、自車を道路左側のガードレールに激突させて路外に転落させ、よつてその衝撃により自車に同乗していたA(当一九年)に対し加療約三か月間を要する右下腿両骨骨折等の傷害を負わせたものである。

というのであつて、右各事実は、当公判廷で取調べた各証拠によつて明らかである。

二  そこで、被告人の処遇について検討してみるに

(一)  被告人が、昭和五〇年一〇月一四日以降、釧路家庭裁判所帯広支部において窃盗事件により審判不開始決定を二回、道路交通法違反事件、北海道青少年保護育成条例違反事件で不処分を二回、窃盗および毒物及び劇物取締法違反事件により保護観察処分を一回受けていること、本件は右保護観察処分に付されてから二〇日程しか経過しない時点における犯行であること、本件犯行時被告人は既に一九歳であつたこと、本件事故の結果が重大であること等の事情からすると、本件については刑事処分を相当とするとの考えにも理由があるといえる。

(二)  しかしながら、本件前後の被告人の生活態度を検討するに、被告人は、昭和五四年九月一七日ころ家を出て、本件の第一回公判期日に出頭しなかつたばかりか、同年一〇月一一日旭川市内で本件により勾引されるまでの間帯広市内や旭川市内の友人のアパート等に他の少年数人と一緒に寝泊まりしてシンナー遊びをするなどしていたこと、被告人は昭和五三年三月に帯広の調理師学校を卒業してからも仕事についた経験は全くなく、かといつて実家の農業を真面目に手伝うでもないといつた「遊び」中心の生活を今日までしてきており、今までに家庭裁判所に係属した事件も総てそうした「遊び」中心の生活の中で惹起されたものであるといえるばかりか、本件も被告人が○○町市街を歩いていた際に、Aから声をかけられて同人宅に泊まり、そこでシンナー遊びをしたうえ、○○町市街に遊びに出るその途中でなしたものであることが認められる。さらに本件について検察官送致がなされた後である昭和五四年七月三一日に毒物及び劇物取締法違反事件が、同年八月一三日に恐喝事件がそれぞれ釧路家庭裁判所帯広支部に送致され、右各事件は検察官送致されることなく同裁判所に係属していること、本件事故については既に示談が成立していること、前記Aも被告人が無免許であることを熟知していたばかりかA自身も無免許であつて、しかも途中被告人と運転を交替するまで自から車を運転していたこと等の事情から同人にも本件についての一担の責任があること、なども認められる。

(三)  そして以上の事情を総合して斟酌すると、被告人自身が自分の「遊び」中心の生活態度を改め、年齢相応の自覚と将来に対する具体的な展望を持つて生活を立て直して行かないかぎり再非行の危険性は高いものといわざるを得ず、被告人の再犯を予防し、その更生を期するには本件について被告人を刑事処分に付するよりは家庭裁判所において前記未処分の事件とあわせて調査検討したうえで必要な保護処分に付する方が妥当なものと考える。

よつて少年法五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 川島貴志郎)

〔参考〕 受移送審決定(釧路家帯広支 昭五四(少)五三〇号、八六三号、四八七号 昭五四・一二・二〇決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

当裁判所が昭和五四年三月二〇日少年に対してなした、少年を釧路保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分は、これを取消す。

理由

一 非行事実および適条

昭和五四年八月四日付同年七月三一日付司法警察員作成の少年事件送致書、同年八月三〇日付検察官事務取扱副検事作成の起訴状記載のとおりであるから、これを引用する。

二 少年は、昭和五〇年一〇月○○○高校を中退後、家事(農業)を手伝つていたが、昭和五二年四月○○調理師専門学校に入学したころから、しだいに生活が乱れ出し、外泊を重ねるようになつて、シンナー吸入、異性交遊を覚え、昭和五三年三月同校を卒業したが、そのころから素行不良者のもとを泊り歩き、家出同様の状態となり、北海道青少年保護育成条例違反、毒物及び劇物取締法違反、窃盗事件等を犯し、昭和五四年三月二〇日当庁において保護観察決定を受けたが、同年四月九日シンナー吸入のうえ無免許運転をして本件業務上過失傷害事件を犯し、同年七月一一日当庁において検察官送致決定を受けたが、同月二七日本件恐喝事件を犯し、上記業務上過失傷害等事件の第一回公判期日に出頭せず、家出して旭川市にいたところ同年一〇月一一日勾引されたものである。

少年は、情緒不安定な面が目立つ程度で、他に知的、性格的負因は特にないが、社会性の遅れが顕著で、その行動傾向は刹那的でその場の雰囲気に左右され、安易に逸脱行動を繰り返し、失敗体験を真剣に受けとめることもなく、目先の剌激を快、不快の感情で行動しており、罪悪感は薄い。一方、保護者は少年に対する受情は深いが、その指導に手をやき、少年院送致決定を望んでいる。上記少年の問題点を改善するためには、なによりも向上心を養い勤労意欲を高め、もつて規範意識の昂揚をはかることが必要であり、少年の性格、環境、監護体制その他諸般の事情を考慮すると、この際中等少年院に送致し、専門的指導のもとに、上記問題点の改善をはかる必要がある。

よつて、主文一項につき少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を、主文二項につき少年法二七条二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 横山秀憲)

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